新刊・旧刊をふくめた、まんがレビューblog。 その他、まんがに関すること。 
 
 

紺野キタ「ひみつの階段」は、思春期の揺れ動く気持ちと、やさしい気持ちの物語

祥華女学院は“女学校”という呼び名が似合う、歴史のある学校。
その寄宿舎ではときおり不思議なことが起きるというのだが…。
ひみつの階段01  
紺野キタ「ひみつの階段」(1)(ポプラ社)
紺野キタ「ひみつの階段」(2)(ポプラ社)

寄宿舎に入ったばかりでホームシック気味の夏ちゃんは、ある日、階段で足首をひねった生徒を助けてあげる。
だが振り向いたらその生徒の姿はなく、階段も存在しなかった。

……“階段”。

それは、毎年何人かは出くわしてしまうという、有名な“現象”だった。

その後、夏ちゃんは音楽室の扉を開けたはずが、友達同士でお茶会をしている部屋に入ってしまう。
みんな知らない子なのに、そこはなぜか居心地が良くて…。
ひみつの階段02
この古い建物には“隠された扉”があちこちにあって、彼女たちは偶然、迷いこんでしまった子たちなのだ。

一人ひとり、生きている時代も違う。
だけど同じ学校に通う、同じ年代の女の子たち。
時のきまぐれによって集まった彼女たちは、いちように淋しさや、悲しさを心に秘めている。

ひとりじゃないよ、淋しくないよ。

やさしく頭をなでてくれるような、不思議な魔法がこの建物にかかっているのかもしれない。


古い建物で起こる、素敵な現象(ファンタジー)。
思春期の揺れ動く気持ちと、優しい気持ちの物語。
“少女の季節”を丁寧に描いた佳作である。


(以上、同人誌「まんが人」6号(2004夏)より再録)
ひみつの階段a
紺野 キタ
ポプラ社

ひみつの階段b



   22:12 | Trackback:0 | Comment:0 | Top

清原なつの「花図鑑」~“花”たちの物語~【まんが人再録】

初めて知ったのは15年ほど前の某雑誌。
そこには可愛い女の子が2人で妊娠検査薬の反応を見ている場面が引用・掲載されていた。
ただならぬものを感じた私は、本屋を探しまわって購入。
それが清原なつの「花図鑑」である。
清原なつの01
・清原なつの「花図鑑」第5話「水の器」

「愛と性のシリーズ」と銘打たれたこの短編シリーズは、大人未満の少女が直面する心とからだの問題が繊細に描かれている。
一歩間違えばスキャンダラスになりがちな内容を、格調高い叙情と絶妙のスタンスで表現したこの作品は歴史に残る金字塔ともいえる。
以下、「花図鑑」を中心に清原なつのが描く“性”の物語を見ていこう。


高校生の梨花は、兄が連れてきたお嫁さんとの同居にいらだっていた。
子どもを望む両親に対し、なかなか子どもができない兄夫婦。
“赤ちゃん”という言葉がタブー食卓は微妙な空気に。
そして繰り返される、なまなましい夜の営み……。
ついにキレた梨花は「人工授精でもすれば」と暴言を吐いてしまう。
清原なつの02
・清原なつの「花図鑑」第14話「梨花ちゃんの田園のユウウツ」

愛があれば私も何でもするようになるのだろうか。

常識も恥ずかしい気持ちもなくしてしまって、自分をおとしめることすらいとわない。

そして体を必要以上に傷つけても結晶を宿したいと思うのだろうか。

(清原なつの「花図鑑」第14話「梨花ちゃんの田園のユウウツ」より)

性への嫌悪感から、人を傷つけ……。
だが梨花も“いずれは通る道なのだ”と気づく。
女という性へのとまどいが端的に表現された一編である。


クラスで浮いた存在だった少女・木崎あんぬは、自分をアネモネにたとえる。(第18話「風の娘-アネモネ-」)
アネモネは、あたりにたくさん咲いてたにもかかわらず、ネアンデルタール人の墓に供えてもらえなかった淋しい花。
食べ物にも薬にもならない、なんの役にもたたない……むしろ毒のある花。
そんな花に自分をたとえていた。
だが彼女と結ばれた少年・高津はいう。

「花は花自身のために咲いている」

少女の性も異性に従属している訳ではない。
心とからだ、ゆるやかな成長のなかで、みずからの運命を選び取ることができるはずなのだ。


「花図鑑」よりも前に発表された短編「春の微熱」では、いとこの男性とひとつ屋根の下に暮らすことになった少女・久美が描かれる。
「パンツいっしょに洗ったらニンシンする」と極端に潔癖な久美は夜道で露出狂に出会い、男のイチモツを見せられる。
清原なつの03
・清原なつの「春の微熱」

あんなのを見せられて、しかえしったって女には何も見せるものが無いじゃない。

いつだって被害者なんだわ。

(清原なつの「春の微熱」より)

少女の性は被害者でしかありえない。
だけど、加害者を選ぶことはできるのだ。
少女の姉はいう。

好きなタイプでうれしかったらやっぱりチカンじゃないわ。

好きなタイプでも嫌だったらチカンよね。

(清原なつの「春の微熱」より)

少女にこんな大らかな判断は難しいかもしれない。
けどその判断ができたとき、少女は大人の階段を上るのかもしれない。


では不幸にも判断とは関係なく、被害者になってしまった場合はどうなのだろうか。
「花図鑑」シリーズが描かれるきっかけとなった短編「空の色水の青」では、宮崎勤の事件(※注)をモチーフにした物語が描かれている。

幼いころ近所のお兄さんにいたずらをされた少女は、自分は汚れていると思いこみ、男性と関係を持てないでいた。
そんな彼女が一風変わった男性と出会い、結ばれる(救われる)までを描いた物語だ。
結ばれた朝、ニュースでは、連続幼女誘拐殺人事件の容疑者が捕まった報が流れ、少女は涙を流す。
男性はいう。

まちがって傷つけられたとしても、生きていれば自分で癒す強さを持っている。

(清原なつの「空の色水の青」より)


不幸にも被害者になってしまった女性の物語は「花図鑑」の最終話にてシリーズをまとめる形で描かれている。

最終話「ノリ・メ・タンゲレ」は、幼いころ無理やり暴力で性行為されたことが原因で性交ができない女性・多貴子の物語。
ある夜、彼氏である正人の前に現れた多貴子は、なんとセーラー服を着た幼い少女の姿だった。
少女は事の真相を正人に教え、私を愛して下さいという……。
清原なつの04
・清原なつの「花図鑑」第20話「ノリ・メ・タンゲレ」

幼いころ、気持ちと関係なく「被害者」になってしまった多貴子。
幻影として現れた幼い多貴子は、愛する人を「加害者」として選び直すことで、救われようとしていたのだ。
正人と結ばれた幼い多貴子は姿を消し、無事ふたりは結ばれる……。

まちがって傷つけられても、自分で癒す強さ。
生きてさえいれば、愛する人を加害者として選び直すことだってできる。

美しく可憐なだけではない。
生きていくつよさ、人を愛するつよさを謳った「花」たちの物語。
この感動は胸に刻まれ、決して消えることはないだろう。


※注 1988-89年に4人の幼女を殺害、遺体を切断。遺灰を被害者宅に送りつけ、当時世間を震撼させた事件。

(以上、同人誌「まんが人」6号(2004夏)より再録)
↓に追記もちょっと書きました。

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   23:18 | Trackback:0 | Comment:0 | Top
 
 
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